逸失利益の算定方法について
ここでは、逸失利益の算定にあたって重要となる「基礎収入」について、解説します。
1 有職者
(1)給与所得者
給与所得者の場合には、原則として事故発生前の収入を基礎収入とします。
もっとも、現実の収入が賃金センサスの平均額以下であった場合でも、平均賃金が得られる蓋然性があれば、賃金センサスの平均賃金を基礎収入にできます。
(2)事業所得者
自営業者、農林水産業者については、申告所得と実際の収入額を考慮して、基礎収入を決定します。実収入額を立証できるのであれば、基本的には、実収入額が基礎収入となると考えて良いでしょう。
また、現実の収入が賃金センサスの平均額以下であった場合でも、平均賃金が得られる蓋然性があれば、賃金センサスの平均賃金を基礎収入にできます。
(3)会社役員
役員報酬については、「労務提供の対価の部分」と「利益配当の実質をもつ部分」とに分けて考えます。前者は認められますが、後者は認められにくいと言えます。
2 無職者
(1)学生・幼児
賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎収入とします。
保険会社は、学生である被害者について、要旨、「現時点でアルバイトをしているに過ぎないため、アルイバイトによる現実の収入を基礎収入とする」との提案をすることがあります。しかし、裁判実務では、学生の基礎収入も賃金センサスによって計算することが一般ですので、保険会社の提案を鵜呑みにしないように注意しましょう。
(2)高齢者
高齢者の場合には、被害者に就労の蓋然性が認められれば、産業計、企業規模計、学歴計、男女別、年齢別平均の賃金額が基礎収入となります。
3 失業者
労働の能力と意欲があり、就労の蓋然性があれば、基礎収入はゼロになりません。
基礎収入の計算方法は事案によって異なります。
原則として、失業前の収入を参考にして再就職によって得られるであろう収入を基礎とします。
失業前の収入が賃金センサスの平均賃金以下であっても、平均賃金を得る蓋然性を立証すれば、平均賃金が基礎収入となります。
4 専業主婦
賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均賃金額を基礎収入とします。
専業主婦は、第三者から現実に賃金の支払いを受けているわけではありませんが、基礎収入がゼロになるわけではありません。
その根拠について、最高裁判所昭和49年7月19日判決(判例タイムズ311号134頁)は、以下のとおり判示しています。
「おもうに、結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によつて現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。」
「かように、妻の家事労働は財産上の利益を生ずるものというべきであり、これを金銭的に評価することも不可能ということはできない。」
5 まとめ
以上のとおり、逸失利益における「基礎収入」は、必ずしも事故発生当時の現実の収入と同じになるわけではありませんので、注意が必要です。